As Time Goes By_猫族.2

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小説_猫族_序章2

____ふと、同族「しどう」の匂いが漂ってきた。家の周り、風上に身を置いたのだろう。私はおもむろに立ち上がると土間に降りた。通い奉公人の「おたき」に向かって、にゃあと鳴く。「おたき」は少し笑うと、鍋横にある笊の中から煮干しを一掴みして細縄で縛り手元に置いてくれる。私はそれを噛むと、「おたき」は引き戸を開け、私を庭に出してくれた。
右手に母屋を抱えた庭は、参拾坪ほどの広さである。が、庭として飾られたものではなく、踏み固められた土が露出するどちらかといえば露天の作業場だ。私は右に折れ、庭端の雑木と生け垣を潜り道に出る。「しどう」が、道の反対側の日向側で待っていた。
「しどう」は黒猫である。しかし、少し灰色で青みがかっていて渡来猫かもしれない。図体は私より大きく貫禄もある。私を見て右手方向に歩き始めたので、私も続く。道は一間幅程度で、しばらく歩くと鳥居が見えてきて、その先を進むと山門に至る。八幡神社である。

 

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