空調エンジニア、そのとき(5)

空気調和

 人の生きていく上で、突発的に起こる個人的出来事。この時、容易に休暇がとれない現場担当者にとって、苦渋に満ちた選択を強いられることがある。
 しかし、現在の施工部員は、かつてほど、精神的にも肉体的にも負担を受けなくなった。そのひとつは、現場作業の分業化である。それは、担当者が一手に引き受けていた現場の諸作業がその項目ごとに専門家に委ねられ、現場担当者は現場管理・技術管理に専念できるようになったこと。しかも、各現場の繁忙度管理は現場支援センターの施工管理課でネットワークを介してコンピュータ管理により正確に把握されており、繁忙度や担当員の休暇等に対応して応援等人員のやりくりを適正に行うので、自身が負担を強いられることはあまり無いのである。もう一つは、分業化を可能とするシステム環境である。施工物件に関するあらゆる情報を一元化させたのである。各人の手帳やダイアリーへのメモ、個人所有の事務書類、図面など、現場が始まって竣工までを時系列的に見れば、関係各人の個人所有情報の集まりで作業が進むという、いわば、始まりから終わりまで毛細血管が複数本並列に連なった形が、これまでのものであった。そのため、事情で担当が代わり、引継ぎが不完全または引継ぎ無しで補充者に作業が移管された場合には、元の担当者レベルに至るまで、無駄な時間と労力が必要だった。これを、打合せ議事録や協力会社への工事指示メモなど工事に関する全ての情報を、本店施工センターの施工管理データベースに電話+パソコン端末を使って収納させる制度に切り替えたのである。先の例えでいうと、毛細血管を集合させて容易に絶ち切れしない情報の大動脈「情報幹線」を作ったのである。現場担当の各人の施工業務に関する情報が1箇所に集められた状況では、担当の1人が休暇で居なくなってもその補充者が業務をこなす上で不足する情報は、その担当者の頭脳にとどめられた情報だけである。補充者はその日来て担当者のこれまで記録を確認することにより、今日何をなすべきか容易に判読できるのである。
 このシステムは、各人の作業形態の根幹部の処理法だったため、なかなか立ち上がらなかった。しかし、分業化で発生する様々な引継ぎや現場員の手配上の利点に気づいたチーフクラスから利用度が増していった。
 このシステムは、[社内守秘]部と[公開]部を持ち、[社内守秘]部は、社内で秘匿すべき情報を収納し閲覧は社内関係者に限られる。[公開]部は、その現場に関係する者にはオープン利用としてあるので、特に協力会社との業務連絡に重宝されている。
 現場担当者が、別件で地方へ出張する。夕食前に宿舎に入り、パソコン端末を回線に接続し、自分の現場の施工図を閲覧する。検討部分をプリンタで打ち出し、明日の協力会社の作業を検討する。図が必要な部分はポンチ絵程度の手書き作図を行う。指示書類をスキャナに読み込ませ、データベースに送る。同時に、システム内の協力会社のメイルボックスに、至急・要返答のタグを付けて[指示あり]を登録する。協力会社は、割り当てられた自社のメイルボックスを常に閲覧するので、指示内容を確認し、具体的作業の検討や作業員の手配、必要器具の準備、必要とあれば当社ファイルサーバー内の施工図の打ち出し等の準備をして明日の作業に備える。作業当日は、待機、打合せも無く、効率的に必要な作業だけを行う。効率を上げた分で他の現場へ向かう。・・といった具合である。
 
 分業システムによって、各人は自身の担当業務に専念し、習熟することにより効率を上げ、処理量を増やす。情報の幹線化によって、効率的人員配置、緻密な情報伝達による工事品質の向上を図る。物件をこなす統計的人員数は減り、現場経費を下げ、工事原価を下げ、物件獲得の競争力を充分持つようになったのである。

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