空調エンジニア、そのとき(2)

空気調和

 施工技術センターは、徒歩2~3分離れた東京本店施工センターと共に3年前に設置され、資料センター、開発センター、研修センターの3つのサブ・センターで構成されており、周囲には、首都圏在所の全ての現場から車で集合することが可能なように、1000台分の駐車場を持つ。ここは、バブル崩壊後の金融クラッシュ時期を狙って、施工物件受注に少なからず影響力を持つ銀行を相手に、バーター取引によって超格安で得た用地で、いわゆるバブル景気で建造した新築未使用の倉庫系建物が付いている。バーター取引の相手が異なった東京本店施工センターの用地とは少し離れてしまった。
資料センターには、受注物件の設計図書、施工時作成資料、竣工図書、サービス履歴のほか、専門図書、専門雑誌、業界ニュース、各種技術資料など、保有する技術資料、物件資料が収納されている。これらは電子メディア化されており、ファイル・サーバー(ネットワーク上へ資料供給するコンピュータ)によりネットワークに接続され、全国どこからでも容易に検索、閲覧、取り出しが可能である。
 開発センターには、CIC(Computer Integrated Construction)など、施工に関する諸々の新技術を開発する機関として実験室、実験場があり、ここでは施工ロボット、新施工法等の開発が行われている。
 研修センターには、大小6つの会議室と管理事務室があり、新入社員教育や専門技術教育、マネジメント教育など、教育プログラムに則った社員教育のほかに、各種の全店会議などに利用されている。また、協力会社員の能力向上のための専門技能研修の場としても利用されている。
 
 9時30分の研修開始時刻まで時間的余裕があるので、今回連絡が入った、埼玉自然史博物館向けのダクトの製作状況を確認するために、近くの東京本店の施工センターへ向かった。

 本店の施工センターは、資材センターと現場支援センターの2つのサブ・センターで構成されている。資材センターには、本店管轄の受注物件用の機器・材料・器具の発注、確認、発送手配を行う資材課と、ダクト・配管の製作加工に必要なスペースを協力会社に貸し与え、指示、管理、指導を行う製作課がある。
 現場支援センターには、施設課、施工図課、施工管理課、品質管理課、法務安全課、現場総務課、現場会計課があり、他に現場事務所の分室用として20室のスペースを持つ。
 施工部門の構成は、施工本部長を頂点とし、施工センター長を副とする文鎮型組織へと大きく変わった。管理の縦構造はセンター部分だけで、現場代人を任される主管技師は、工事本部長の直轄管理で、人員配置計画や現場の会計を含む各種事務手続きの確認、承認は、対等レベルの施工管理課、現場総務課、現場会計課により的確、緻密に行われる。現場代人の自己責任に重きをおいた組織といえる。
 施工部門の組織変更に伴い、現場での業務内容が様変わりした。もちろん、現場の業務内容を変えるための組織変更だったが、原価低減を図る最大の場である現場の効率的運用の積極的な推進を試みたのである。
 受注物件の現場乗り込みから竣工までの現場の様々な処理は、そこへ配属された担当者が全てをこなすオールラウンダーによる運営であったが、これを、発生する様々な作業を各作業の専門家が処理する縦/横チーム方式に切り替えたのである。
これまでどおり現場の担当は定められるが、これには、施工部の所属員が当たり、小規模物件でも必ずチーフ、サブが置かれ施工を進める本作業を行う。サブはおもに中堅の主任技師が担当し、チーフの指導のもと、現場に常駐し、メンバーとなる教育途上の一般技師に指示して、施工業務部分の全てをこなす。教育途上にある技術者といっても、新入社員からの5年間は教育ローテーションによる配管、ダクト等の施工専門会社への出向を経ての人材である。チーフは主管技師が当たり、複数の現場を担当し、施行計画、実行予算から施工法、施行要領の要諦を定め、サブに実施を委ねる。定めた後のチーフの仕事は、週1回程度、現場に出向き、工程・人員・技術管理上、必要に応じて定期的・臨時的指導書を作成、指導することと、実施中に発生する諸問題によっておこる決定事項の変更修正について、サブから提出される変更内容の承認に終始する。
 施工部は、現場のチーフとなる主管技師とサブとなる主任技師およびメンバーの一般技師で構成され、その上は、基本的には施工部長を兼務している施工本部長だけである。施工部は、チーフ、サブによる自己責任主義を徹底しているといえる。
 現場作業における、重要ではないが処理すべき些事で煩多な作業のうち、代行できるものは、施工センターの資材センターと現場支援センターの支援組織によって、極力代行するシステムが採用されている。これによって、彼らの作業は建設にかかる純然たる施工業務作業におおむね専念できることになる。
 製作課は、現場でのダクト・配管作業を減少、合理化するために、最終加工までを極力工場側で行うことの徹底と製作加工の効率を上げるための製造工程の合理的管理の指導や技術的指導を行う。また、中小の製作会社に仕事と場を提供し、担当物件について現場、施工図課と連携して製作部分のスケジュール管理を行う。製作に関する最新技術には常時着目し、定期的、臨時的に協力会社への研修実習を行っている。
 資材課は、仕様確認、発注業務につき、機器類にとどまらず、材料についても行い、現場スケジュールに合わせた搬入手配まで行う。現場での倉庫スペースと資材管理を不要とさせるため、倉庫を持ち、各現場毎に保管スペースを用意している。現場で、資材を必要とする作業を行う協力会社は必要時に現場を介さず、直接ここに依頼、配送してもらうか、途中で立ち寄る方法をとる。また、各種関係機器機材を少量づつサンプル納入させ、現場からの緊急納品依頼への対応と各種研修での教材に利用している。
 倉庫管理と現場への搬入業務はそれぞれ専門業者に委託しているが、流通業界の構造的不況により、競争が激化、サービス合戦となり、現場への搬入業務を契約した業者は隣地に出張所を置くほどで、おかげで24時間供給体制にある。
 支援センターは名の通り現場の業務を支援する組織である。
 現場乗り込み当初の現場事務所の設営は、建築側との交渉から事務所内の電話、OA機器、各種什器の設置まで、施設課が担当し出向いて処理する。
 施工図の作成は、現在、全物件の70%までを施工図課が直接・間接的に処理している。施工図課員はそのほとんどが教育ローテーション中のメンバーで構成されている。作成された施工図は嘱託となったベテラン技術者によるチェックを受けることが義務づけられ、専門化による合理化と人材教育を合わせ持ち、かつ、チェックの充実により品質の強化を図っている。
 メイルボックスによる連絡業務、各人のスケジュール管理、ブリテンボード(コンピュータ内での意見交換、発表の場)管理、起工式や竣工式といった式典業務は、現場総務課が担当する。
 現場、資材課、製作課、施工図課、現場総務課と、多くの部署で発生する1現場物件で発生する会計処理および実行予算との照合を含めた監視を、現場管理課が担当する。
 竣工引き渡しで必要とする書類作成は品質管理課が行う。数年前から竣工図書の一部として新たに要求されるようになった「システム・機器の能力確認検査報告書」のための各種検査の実施作業も業務に入ったため、これと関連する試運転調整作業そのものを代行するようになった。また、現場での技術的諸問題に対して、直接対面するサブへの技術的支援についても、品質管理課が行う。ここには、各分野で専門家になった嘱託技術者を抱えており、定期的、臨時的に技術指導を行う。
 建設上必要な遵守法規の確認と、諸官庁への届出業務および安全に関する諸業務は、法務安全課がその多くを代行する。 
なお、組織変更の長期計画では、現場における技術系と事務系の作業がさらにに専門分担化されることになっている。また、現場乗り込み時期を臨機応変に対応するために、先乗り班と現場本班に分業化される予定である。

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